近年、日本企業の海外展開においてM&A(合併・買収)が注目されています。国内市場の成長が鈍化する中、海外市場へと事業を拡大することで、新たな成長機会を獲得する企業が増えています。その中でも、オーストラリアは魅力的な市場の一つとされています。政治・経済の安定性が高く、英語圏であることからビジネスのしやすさも抜群です。
しかし、オーストラリアでの事業展開は、ゼロからの市場開拓となると多くの時間とコストを要します。その点、M&Aを活用すれば、既存の事業基盤をそのまま活用できるため、スムーズな市場参入が可能です。実際に、日本企業によるオーストラリア企業の買収事例も増えており、特に中堅・中小企業にとっても有効な手法となっています。
本記事では、オーストラリアのM&A市場の特徴や、日本企業がM&Aを活用するメリット、成功するためのポイントについて詳しく解説します。M&Aを検討している企業の皆さまにとって、有益な情報をお届けできれば幸いです。
目次:
・M&Aとは? 海外進出における重要性
・オーストラリアのM&A事情
- オーストラリア国内のM&A市場の特徴
- 外資によるオーストラリアM&Aの動向
- 日本企業によるオーストラリアM&Aの動向
・オーストラリアでM&Aを実施するメリット
- 市場の安定性
- 新規参入のハードルを低減
- 人材・労働市場の活用
- FTA・EPAの活用
・オーストラリアでのM&Aに成功するためのポイント
- 適切なターゲット企業の選定
- 規制と法務リスクの把握
- PMI(ポストM&Aインテグレーション)の重要性
・FAQ(よくある質問)
・まとめ
M&Aとは? 海外進出における重要性

M&A(Mergers and Acquisitions)は、企業の合併や買収を指す言葉です。一般的に、企業が成長戦略の一環として他の企業を買収したり、合併したりすることで、事業規模の拡大や新たな市場への進出を図ります。特に、海外市場においては、M&Aを活用することで、既存のブランドや販路、顧客基盤をそのまま引き継ぐことができるため、短期間での市場参入が可能となります。
オーストラリアは、日本企業にとって魅力的な市場の一つです。地理的にアジアに近く、FTA(自由貿易協定)などの経済連携が進んでいることから、ビジネスの機会が多く存在します。しかし、文化やビジネス環境が異なるため、新規で事業を立ち上げるには時間と労力がかかります。そこでM&Aを活用すれば、現地の経営資源を最大限に活用し、スムーズな市場進出が実現できます。
日本国内では、少子高齢化に伴う市場縮小が進んでおり、国内だけでは成長を維持することが難しくなっています。そのため、海外市場への進出を視野に入れる企業が増えており、その手段としてM&Aが有効な選択肢として注目されています。
オーストラリアのM&A事情

オーストラリア国内のM&A市場の特徴
オーストラリアのM&A市場は、比較的透明性が高く、安定した経済基盤のもとで活発に取引が行われています。特にエネルギー・鉱業、ヘルスケア、テクノロジー、食品・農業などの分野でM&Aが頻繁に実施されており、国内企業同士の合併・買収も一般的です。オーストラリア政府は市場の健全な成長を促すため、M&Aに関する法規制を整備しており、企業買収のプロセスは比較的スムーズに進めることができます。
オーストラリアのM&A市場においては、大手企業による大型買収だけでなく、中堅・中小企業によるM&Aも増加傾向にあります。特に、家族経営の企業が事業承継の手段として売却を選択するケースが多く、オーストラリア国内でのM&A件数の増加につながっています。このような背景から、オーストラリアでは売却を希望する企業の数も多く、買収を検討する日本企業にとっては良質なターゲット企業を見つけやすい環境が整っています。
また、オーストラリアのビジネス環境は英語圏であり、欧米型の経営スタイルが一般的です。買収後の統合作業(PMI)においても、言語の壁が比較的少ない点は、日本企業にとってメリットとなります。一方で、オーストラリア特有の労働法や税制、政府の規制などを事前に十分理解し、適切に対応することが求められます。
外資によるオーストラリアM&Aの動向
オーストラリアは、外資による投資が活発な国の一つであり、米国、欧州、中国、日本といった主要経済圏の企業が積極的にM&Aを行っています。特にアメリカとイギリスの企業がオーストラリアの主要な投資国となっており、金融・不動産、エネルギー、ヘルスケア分野を中心に大型のM&A案件が多く見られます。
アジア圏では、中国企業によるオーストラリアの資源関連企業への投資が過去に急増しましたが、近年では規制の強化により、慎重な投資が求められるようになっています。一方、日本企業の投資は食品、ヘルスケア、IT・テクノロジー分野に広がっており、特にオーストラリアの安定した消費市場を狙った買収案件が増えています。
オーストラリア政府は、外資によるM&Aを一定の条件のもとで歓迎していますが、特定の業種においては「外国投資審査委員会(FIRB)」による審査が必要となります。FIRBの審査対象となるのは、オーストラリアの国家安全保障に関わる企業や、一定額を超える投資案件などであり、政府の承認を得るまでに数か月を要する場合があります。そのため、M&Aを検討する際には、事前に規制を把握し、スムーズな審査通過に向けた準備を行うことが重要です。
日本企業によるオーストラリアM&Aの動向
日本企業によるオーストラリア企業のM&Aは、ここ数年で増加傾向にあります。特に、日本市場の成長鈍化を背景に、オーストラリア市場の安定性と成長性を求めて進出する企業が増えています。M&Aを通じてオーストラリアのブランドや販売ネットワークを獲得し、現地市場での競争力を高める戦略が一般的です。
中でも、食品業界、ヘルスケア業界、IT・テクノロジー業界の事例が多くなっているようです。日本企業によるM&Aは、オーストラリア企業のブランド力や販売チャネル、人材を活用できる点が大きなメリットとなっています。一方で、企業文化の違いや経営統合(PMI)の課題を克服するために、慎重な戦略が求められます。
オーストラリアでM&Aを実施するメリット

市場の安定性
オーストラリアは、政治・経済の安定性が高く、長期的な成長が期待できる市場の一つです。世界的な経済不況の影響を受けにくく、過去30年以上にわたって継続的な経済成長を遂げてきました。特に、資源輸出による強い経済基盤を持ち、金融システムも安定しているため、外資にとっても安心して投資できる環境が整っています。
また、オーストラリアは英語圏であり、欧米のビジネススタイルに近いため、国際ビジネスの展開が比較的容易です。これにより、日本企業にとっても、市場の透明性が高く、ビジネスのリスクを管理しやすい環境が提供されています。さらに、政府の規制が整備されており、契約の透明性や法的な保護も手厚いため、M&Aを進める上での安心感がある点も大きなメリットとなります。
また、オーストラリアはアジア圏に近いため、日本企業にとっては地域戦略の一環として活用しやすい市場です。オーストラリア市場への参入が成功すれば、アジア太平洋地域全体でのビジネス展開の足掛かりとなる可能性もあります。特に、ASEAN諸国との経済連携が進む中で、オーストラリアとのビジネス関係を強化することは、将来的な市場拡大にもつながるでしょう。
新規参入のハードルを低減
オーストラリア市場にゼロから参入する場合、現地でのブランド認知や販路開拓、ビジネスネットワークの構築に多くの時間とコストがかかります。しかし、M&Aを活用することで、すでに確立された事業基盤をそのまま利用できるため、新規参入に伴うハードルを大幅に低減できます。
例えば、現地企業のM&Aを通じて、その企業の顧客ネットワークや販売チャネルをそのまま引き継ぐことが可能です。これにより、新たに市場調査を行ったり、営業活動をゼロから展開したりする必要がなく、迅速に市場に適応することができます。また、現地企業のブランドや信用を活用することで、日本企業単独での進出よりもスムーズにビジネスを展開できる点も大きなメリットです。
特に、オーストラリアの規制や法律は業界によって異なり、新規参入には一定の許認可が必要な場合があります。しかし、すでに事業を営んでいる企業を買収すれば、これらの許認可を継承することができるため、事業運営の負担を軽減することが可能です。例えば、医療や金融、不動産業界など、特定の資格やライセンスが必要な業種では、新たに申請する手間を省けるため、M&Aによる参入が特に有効となります。
人材・労働市場の活用
オーストラリアは、多様な人材が集まる国としても知られています。特に、高度な専門知識を持つ人材が多く、IT・ヘルスケア・金融などの分野では、国際競争力の高い人材を確保することが可能です。M&Aを通じて現地企業を買収すれば、その企業が持つ人材をそのまま引き継ぐことができるため、即戦力として活用することができます。
また、オーストラリアの労働市場は比較的流動性が高く、特に技術職や管理職においては、グローバルな視点を持つ人材が多く存在します。英語を共通語とするため、国際ビジネスに対応しやすい人材が豊富にいる点も、日本企業にとって魅力的です。さらに、オーストラリアは移民政策を積極的に推進しており、多国籍の人材を活用できる環境が整っています。
ただし、オーストラリアの労働法は比較的厳しく、解雇規制や雇用契約に関するルールが厳密に定められています。そのため、M&Aを行う際には、労働法に基づいた適切な人事管理が求められます。特に、買収後の従業員との関係構築や、労働条件の調整については慎重に対応する必要があります。現地の労働環境や文化を尊重しながら、スムーズな人材マネジメントを行うことが成功の鍵となるでしょう。
FTA・EPAの活用
オーストラリアは、日本と経済的に密接な関係を持つ国の一つであり、自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)を活用することで、貿易や投資の障壁を大幅に低減することができます。特に、日本とオーストラリアは「日豪経済連携協定(JAEPA)」を締結しており、これにより両国間の貿易や投資が活発に行われています。
この協定により、多くの工業製品や農産品の関税が撤廃・削減されており、日本企業にとってオーストラリア市場でのコスト競争力を高める要因となっています。例えば、食品や自動車関連製品、電子機器などの分野では、関税の優遇措置を活用することで、より有利な条件でビジネスを展開することが可能です。
さらに、オーストラリアは環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)の加盟国でもあり、これによりアジア太平洋地域の他の国々とも強い経済連携を持っています。これにより、オーストラリアを拠点に周辺国との貿易を拡大することも可能となります。日本企業がオーストラリア企業を買収することで、FTA・EPAのメリットを最大限に活用し、グローバルなビジネス展開を加速させることができるでしょう。
また、オーストラリア政府は外国企業による投資を促進するための制度を整えており、一定の条件を満たす企業に対して税制優遇や補助金を提供することもあります。これにより、M&Aを通じたオーストラリア市場への進出が、よりスムーズかつコスト効率の良いものとなる可能性があります。
オーストラリアでのM&Aに成功するためのポイント

適切なターゲット企業の選定
オーストラリアでM&Aを成功させるには、まず適切なターゲット企業を選定することが重要です。単に市場シェアの高い企業を買収するだけではなく、自社のビジネスモデルや戦略と合致するかどうかを慎重に検討する必要があります。特に、日本企業とオーストラリア企業の間では経営文化や商習慣に違いがあるため、買収後の統合プロセス(PMI:Post-Merger Integration)を考慮した選定が求められます。
また、ターゲット企業の財務状況や成長性の分析も欠かせません。収益性が高い企業でも、負債が多かったり、特定の顧客に依存している場合はリスクが高まるため、詳細なデューデリジェンス(DD)を実施することが不可欠です。さらに、現地のM&A仲介会社やコンサルタントと連携し、買収候補となる企業の詳細な情報を収集することも成功の鍵となります。
法規制と外資規制の理解
オーストラリアでは外資によるM&Aに対して一定の規制が設けられています。特に、「外国投資審査委員会(FIRB)」による審査が必要な案件では、買収の目的や影響について詳細な説明を求められることがあります。特に、インフラ、エネルギー、メディア関連の企業を買収する場合は審査が厳しくなるため、事前に専門家と協議しながら準備を進めることが重要です。
また、労働法や税制についても事前に確認する必要があります。日本とオーストラリアでは従業員の雇用形態や解雇規制、福利厚生制度に違いがあるため、M&A後の人事管理において問題が生じないように留意しなければなりません。税制面では、M&Aに伴うキャピタルゲイン税(CGT)の影響や、オーストラリア特有の法人税制度を把握し、適切な税務戦略を構築することが求められます。
PMI(ポストM&Aインテグレーション)の重要性
M&Aが成立した後、事業の統合プロセス(PMI)がスムーズに進むかどうかが成功の分かれ道となります。買収自体は成功しても、経営統合が適切に行われなければ、期待していたシナジーを生み出すことができません。特に、日本とオーストラリアの企業文化は異なるため、経営の意思決定プロセスや業務プロセスの違いを十分に理解した上で、統合計画を進める必要があります。
PMIの成功には、現地の経営陣や従業員との信頼関係を築くことが欠かせません。買収後に一方的な経営方針の変更を行うと、従業員のモチベーションが低下し、離職率が上がるリスクがあります。そのため、現地の価値観を尊重しながら、段階的に統合を進めることが理想的です。また、M&A後の業務フローやITシステムの統合にも時間がかかるため、事前に統合計画を綿密に立てておくことが重要です。
FAQ(よくある質問)
Q1. オーストラリアのM&Aにかかる期間はどのくらいですか?
M&Aのプロセスは、企業の規模や業界、規制の有無によって異なりますが、通常6か月から1年程度かかると考えられます。特に、FIRBの審査が必要な場合や、買収先企業の財務・法務調査(デューデリジェンス)に時間を要する場合は、さらに期間が延びることもあります。スムーズに進めるためには、事前にスケジュールを立て、専門家と連携しながら準備を進めることが大切です。
Q2. 中小企業でもオーストラリアM&Aは可能ですか?
中小企業であっても、適切な資金調達と戦略的なM&A計画があれば十分可能です。特に、オーストラリアでは中小企業のM&A案件が多く存在しており、企業承継の目的で売却を希望するケースも増えています。資金面では、日本国内の金融機関や投資ファンドを活用することで、必要な資金を調達することもできます。中小企業ならではの柔軟性を活かし、現地の企業とのシナジーを最大化することが成功のポイントとなります。
Q3. M&A後の経営で注意すべきポイントは?
M&A後の経営で最も重要なのは、買収先企業の従業員との円滑なコミュニケーションです。日本企業の経営スタイルは、オーストラリア企業と異なる点が多く、特に意思決定のスピードや組織文化の違いに適応する必要があります。また、業務プロセスの違いを理解し、必要に応じて現地に適したマネジメント手法を採用することが求められます。現地の経営陣と協力しながら、段階的に経営統合を進めることが成功の鍵となります。
Q4. M&A以外のオーストラリア進出手法にはどのようなものがありますか?
M&A以外にも、オーストラリア進出の手法としてジョイントベンチャー(JV)や現地法人の新設、フランチャイズ契約などの方法があります。M&Aは即時に市場参入できるメリットがありますが、コストやリスクも伴います。そのため、企業の規模や戦略に応じて、最適な進出手法を選択することが重要です。ジョイントベンチャーであれば、現地企業と協力しながら事業を進めることで、リスクを分散することも可能です。
まとめ
オーストラリアは、政治・経済の安定性が高く、海外企業にとってビジネスチャンスの多い市場です。日本企業にとっても、成長市場への進出手段としてM&Aは非常に有効な手段となります。特に、既存の事業基盤を活用できるため、市場参入までの時間とコストを大幅に削減することが可能です。
M&Aを成功させるためには、適切なターゲット企業の選定、法規制の理解、PMIの計画と実施が重要なポイントとなります。また、日本とオーストラリアのビジネス文化の違いを踏まえ、柔軟な経営統合を進めることが求められます。中小企業であっても、適切な戦略と準備があれば、M&Aを通じてオーストラリア市場で成功するチャンスは十分にあります。
これからオーストラリアでのM&Aを検討する企業にとって、本記事が有益な情報となり、成功への道筋を示す一助となれば幸いです。
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