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【2026年最新版】オーストラリアの法人税制度を徹底解説|税率・優遇制度・進出時の税務戦略

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この記事のポイント
オーストラリアの法人税率は標準30%、中小企業(年商5,000万AUD未満)は25%の二層構造
・2025年1月より第2の柱(グローバルミニマム課税15%)の軽課税所得ルールが適用開始
・インスタント・アセット・ライトオフ(上限20,000AUD)が2026年6月末まで延長
・日豪租税条約を活用した二重課税回避と、フランキング・クレジット制度による配当課税軽減が重要
・R&D税額控除は売上2,000万AUD未満で最大43.5%還付と、世界的にも手厚い水準

オーストラリアは安定した経済環境と透明性の高い法制度を背景に、日本企業の海外進出先として根強い人気を誇ります。しかし、オーストラリアで法人設立を検討する際には、現地の法人税制度を正確に理解することが不可欠です。法人税率の構造、各種優遇制度、そして2025-2026年度に施行された税制改正の内容を把握しておかなければ、予想外の税負担や申告漏れのリスクを抱えることになりかねません。

本記事では、オーストラリアの法人税制度について、基本的な税率体系から最新の改正動向、日本企業が特に注意すべきポイントまでを網羅的に解説します。オーストラリアの経済動向とあわせて理解することで、より的確な進出判断が可能になるでしょう。

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オーストラリアの法人税の基本概要

法人税率の全体像(標準30%と中小企業25%の二層構造)

オーストラリアの法人税制度は、連邦政府が一元的に管理する全国統一の制度です。日本のように地方税(事業税や住民税)が別途課されることはなく、州ごとの追加課税もありません。この点は、複雑な地方税体系を持つ国と比較して、オーストラリアの税務計画をシンプルにしている大きな特徴といえます。

2025-2026年度(2025年7月〜2026年6月)における法人税率は、一般法人に対して30%が適用されます。一方、一定の要件を満たす中小企業(Base Rate Entity)には25%の軽減税率が適用されます。この二層構造は2021/22年度から定着しており、中小企業の税率は段階的に引き下げられてきた結果、現在の25%に至っています。

中小企業として25%の軽減税率を適用するためには、2つの条件を同時に満たす必要があります。第一に、当該年度の合計売上高(aggregated turnover)が5,000万AUD未満であること。第二に、受動的収入(利子、配当、賃貸料、ロイヤルティなど)が総収入の80%以下であること。これらの条件は毎年度ごとに判定されるため、前年度に適用を受けていても、当年度に条件を満たさなければ30%が適用される点に注意が必要です。

居住法人・非居住法人の区別と課税範囲

オーストラリアの法人税は、法人の「居住性」によって課税範囲が大きく異なります。居住法人とは、オーストラリアで設立された法人、または実質的な経営管理が行われている場所(central management and control)がオーストラリアにある法人を指します。居住法人は全世界所得に対して課税されるため、オーストラリア国内で得た所得だけでなく、海外子会社からの配当や海外で得たキャピタルゲインも課税対象に含まれます。

これに対し、非居住法人は原則としてオーストラリア源泉所得のみが課税対象です。ただし、非居住法人であっても恒久的施設(Permanent Establishment、PE)を通じてオーストラリアで事業を行っている場合は、そのPEに帰属する所得に対して法人税が課されます。日本企業がオーストラリアに駐在員事務所や支店を設置する場合、PE認定の有無が税務上の重要な分岐点となります。

会計年度と申告・納税の基本フロー(PAYG方式)

オーストラリアの標準的な会計年度は7月1日から翌年6月30日までです。法人税の申告書は、通常、会計年度終了後の翌年2月末日までに提出する必要があります。ただし、タックスエージェント(税務代理人)を通じて申告する場合は、延長された期限が適用されることが一般的です。

納税方式としては、Pay-As-You-Go(PAYG)インストールメント制度が採用されています。これは前年度の税額に基づいて年4回(四半期ごと)または毎月の分割前払いを求める仕組みで、年度末にまとめて多額の税金を支払う負担を避けるために設計されています。実際の納税額が前払い額を上回った場合は年度末に差額を納付し、下回った場合は還付を受けることができます。新規設立法人の場合、初年度は前年度実績がないため、オーストラリア税務局(ATO)から通知されるインストールメント率に基づいて計算します。

法人税率の詳細と適用条件

中小企業優遇税率の適用要件(Base Rate Entity)

中小企業向けの25%軽減税率は、オーストラリア政府が国内の中小企業振興策の一環として段階的に導入してきた制度です。以下の表で、法人の種類ごとの税率と適用条件を整理します。

区分法人税率適用条件備考
一般法人(大企業)30%年商5,000万AUD以上、または受動的収入が80%超上場企業、大手外資系法人など
中小企業(Base Rate Entity)25%年商5,000万AUD未満かつ受動的収入80%以下2021/22年度以降適用
非居住法人(PE課税)30%オーストラリア源泉所得のみPEに帰属する所得が対象
グローバルミニマム課税対象企業最低15%年間売上7.5億ユーロ以上の多国籍企業グループ2024年1月〜IIR/DMT適用開始

日本企業がオーストラリアに子会社を設立する場合、子会社の売上規模が5,000万AUD未満であれば25%の軽減税率が適用される可能性があります。ただし、受動的収入の割合要件も同時に満たす必要があるため、親会社からの貸付利息やロイヤルティ収入が多い場合は注意が必要です。受動的収入の判定に際しては、関連会社間取引の設計が税率に直結するため、進出計画の段階から慎重に検討すべきです。

配当課税とフランキング・クレジット制度

オーストラリアの配当課税制度を理解する上で、フランキング・クレジット(Franking Credit)制度は最も重要な概念の一つです。この制度は、法人所得に対する二重課税(法人段階での課税と株主段階での配当課税)を排除するために設計されたオーストラリア独自の仕組みです。

具体的には、法人が利益に対して法人税を支払った後、その税引後利益から配当を支払う際に、既に支払った法人税額を「フランキング・クレジット」として配当に付加します。配当を受け取った株主(個人・法人)は、受取配当額にフランキング・クレジットを加算した「グロスアップ配当」を課税所得に含めますが、同時にフランキング・クレジットと同額の税額控除を受けることができます。結果として、法人段階で支払われた税額が株主の税額から差し引かれ、経済的な二重課税が回避されるのです。

日本の親会社がオーストラリア子会社から配当を受け取る場合、フランキング・クレジットの恩恵を直接受けることはできませんが、日豪租税条約の適用により配当に対する源泉税率が軽減されます。配当の源泉税率は、親会社の議決権保有割合等に応じて0%から10%の範囲で適用されます。

源泉徴収税率(日豪租税条約の適用)

オーストラリアから日本への支払いに対する源泉徴収税率は、日豪租税条約(2008年12月発効)によって以下のように定められています。条約非適用の場合の国内法上の税率よりも大幅に軽減されており、日本企業にとって重要な恩恵です。

支払い種類条約適用税率国内法上の税率条約適用の条件
配当(議決権80%以上・12か月保有、適格配当)0%30%議決権の直接保有80%以上かつ12か月以上保有
配当(議決権10%以上保有)5%30%議決権の10%以上を直接保有
配当(その他)10%30%上記以外の場合
利子10%10%日豪条約の標準適用
ロイヤルティ5%30%工業的・商業的・学術的使用料

特に注目すべきは配当に対する源泉税率です。日本の親会社がオーストラリア子会社の議決権を80%以上保有し、かつ12か月以上保有している場合、配当に対する源泉税は0%となります。完全子会社の場合はこの条件を満たすことが一般的であるため、オーストラリアからの配当送金に際して源泉税負担が生じないケースが多いといえます。

法人設立と税務登録の実務

ABN・TFN取得の手続きと注意点

オーストラリアで事業を行うには、まずABN(Australian Business Number)とTFN(Tax File Number)の取得が必要です。ABNは11桁の事業者識別番号で、オーストラリアで事業活動を行うすべての企業に付与されます。TFNは9桁の納税者番号で、税務申告や各種届出に使用されます。

ABNの取得はオーストラリアビジネスレジスター(ABR)のウェブサイトからオンラインで申請可能です。申請にはオーストラリア国内での事業活動の実態や予定を示す必要があり、通常は法人設立後すぐに申請します。TFNもATOへの申請により取得しますが、法人の場合はABN取得時に自動的に付与されるケースもあります。ABNを取得せずに取引を行うと、相手方が支払い時に最高税率での源泉徴収を求められるため、事業開始前の取得が不可欠です。

GST(消費税10%)登録義務と仕入税額控除

GST(Goods and Services Tax)はオーストラリアの付加価値税に相当する間接税で、税率は一律10%です。年間売上高が75,000AUDを超える事業者、または非営利団体で150,000AUDを超える場合には、GST登録が義務付けられています。登録基準を下回る事業者も任意で登録することが可能であり、仕入税額控除(Input Tax Credit)を受けたい場合には自主的に登録するメリットがあります。

GST登録事業者は、商品やサービスの販売時にGSTを徴収し、仕入れ時に支払ったGSTとの差額をATOに納付します。申告頻度は売上規模に応じて月次または四半期ごとに選択でき、年間売上2,000万AUD以上の事業者は月次申告が義務付けられています。日本企業がオーストラリアに進出する際は、売上の見込みに応じてGST登録のタイミングを計画しておくことが重要です。

駐在員派遣時の個人所得税と居住者認定

日本企業がオーストラリアに駐在員を派遣する場合、個人所得税の取り扱いは慎重に検討する必要があります。オーストラリアの税法上、183日以上オーストラリアに滞在する個人は「税務上の居住者」とみなされる可能性があり、この場合は全世界所得に対して課税されます。183日ルールはあくまで判定基準の一つであり、住居の保有状況や家族の所在、事業上の結びつきなど、複数の要素を総合的に勘案して居住性が判断されます。

2025/2026年度のオーストラリア居住者に対する個人所得税率は、18,200AUDまでが非課税、18,201〜45,000AUDが16%、45,001〜135,000AUDが30%、135,001〜190,000AUDが37%、190,001AUD以上が45%となっています。これに加えてメディケア税(基本2.0%)が課されるため、高所得の駐在員の実効税率は相応に高くなります。

また、駐在員の活動内容によっては法人レベルでPE認定のリスクが生じる可能性もあります。駐在員が現地で契約締結権限を有する場合などは、親会社のPEが認定される恐れがあるため、派遣前に税務専門家と十分に協議することが推奨されます。

2025-2026年度の税制改正と最新動向

連邦政府予算案の主要変更点

2025年3月25日に発表された2025-2026年度オーストラリア連邦政府予算案では、法人税率自体の変更は行われませんでした。しかし、税務執行の強化という観点では重要な変更がありました。ATOに対して約10億AUDの追加予算が計上され、多国籍企業や大企業を中心とした税務コンプライアンスの監視体制が大幅に強化されています。この施策により、今後4年間で約30億AUDの追加税収を見込んでいます。

個人所得税については約170億AUDに及ぶ減税措置が盛り込まれました。これは駐在員の税負担にも影響する変更であり、日本企業の人事・報酬設計にも関わる重要な動向です。また、脱炭素化推進策として「フューチャー・メード・イン・オーストラリア」プログラムの下、水素や重要鉱物の生産に対する税制優遇措置(約137億AUD規模)も導入されています。

グローバルミニマム課税(第2の柱)の導入

オーストラリアは、OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)包括的枠組みに基づく第2の柱(グローバルミニマム課税)を法制化し、段階的に適用を開始しています。2024年1月1日以降に開始する事業年度から所得合算ルール(IIR)と国内ミニマム税(DMT)が適用され、2025年1月1日以降の事業年度からは軽課税所得ルール(UTPR)も適用対象に加わりました。

この制度は、年間連結売上高が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループに対し、実効税率が15%を下回る国・地域で生じた利益に対して追加課税(トップアップ税)を課すものです。日本企業グループがオーストラリアで事業を行う場合、グループ全体の売上規模によっては対象となる可能性があるため、グローバルな税務戦略の見直しが求められます。

ATOは2025年にPCG 2025/4を公表し、移行期間中(2026年12月31日以前に開始し2028年6月30日以前に終了する事業年度)にはソフトランディング・アプローチを採用するとしています。この期間中は、合理的な対応措置を講じている企業に対してペナルティの軽減が認められますが、コンプライアンス体制の整備は早期に着手すべきです。

インスタント・アセット・ライトオフの延長

中小企業にとって特に重要な制度であるインスタント・アセット・ライトオフ(即時償却制度)は、2026年6月30日まで延長されています。この制度では、年間売上高が1,000万AUD未満の中小企業が、1資産あたり20,000AUD未満の設備投資について、減価償却を待たずに購入年度に全額を損金算入できます。

2026年7月1日以降は、別途法改正がなされない限り、上限額が1,000AUDに戻る見通しです。したがって、設備投資を予定している中小企業にとっては、2026年6月末までに資産の購入・設置を完了させることが税務上有利といえます。対象資産は新品・中古を問わず、工具、機械、コンピュータ機器、家具など幅広い事業用資産が含まれます。

また、2025-2026年度では非居住者に対するキャピタルゲイン税(CGT)の源泉徴収税率が12.5%から15%に引き上げられ、従来あった750,000AUDの閾値も撤廃されました。不動産等のCGT資産を保有する日本企業にとっては、売却時のキャッシュフロー計画に影響を与える変更です。

日本企業が留意すべき税務リスクと対策

二重課税リスクと日豪租税条約の活用

日本企業がオーストラリアで事業を行う際に最も懸念されるのが、日豪双方での課税による二重課税の問題です。日豪租税条約(2008年12月発効)は、この問題に対する包括的な解決枠組みを提供しています。同条約は、配当・利子・ロイヤルティに対する源泉税率の上限を定めるとともに、PE認定の基準や相互協議手続き(MAP)の枠組みを規定しています。

日本側では、外国税額控除制度を活用することで、オーストラリアで支払った法人税を日本の法人税額から控除することが可能です。ただし、控除額には上限(国外所得に対応する日本の法人税額相当分)があるため、オーストラリアの実効税率が日本を上回る場合は、完全には相殺できない可能性があります。進出計画の段階から、両国の実効税率を比較検討し、グループ全体の税負担を最適化する設計が求められます。

移転価格税制と文書化義務

オーストラリアの移転価格税制は、関連会社間取引に対して独立企業原則(Arm’s Length Principle)の遵守を求めています。ATOはこの分野において積極的な監査姿勢を採っており、特に多国籍企業グループの関連者間取引に対する調査は年々強化されています。

文書化義務の面では、オーストラリアはOECDの3層構造の文書化(マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書)をいずれも要求しています。年間関連者間取引額が一定の閾値を超える法人には、詳細な移転価格文書の作成・保存が義務付けられています。文書の不備はペナルティの対象となるだけでなく、税務調査時に立証責任が企業側に転嫁される可能性もあるため、取引開始時点から適切な文書整備を行うことが重要です。

日本の親会社とオーストラリア子会社間の典型的な取引として、管理サービスフィー、ロイヤルティ、グループ内貸付の利息などが挙げられますが、いずれも独立企業間価格での設定と、その根拠を示す文書の作成が不可欠です。

タックス・ガバナンス要求と税務執行強化

オーストラリアでは、年間売上高が1億AUD以上の法人グループに対して、タックス・ガバナンス(税務統治)の開示義務が課されています。具体的には、取締役会レベルでの税務リスク管理体制の整備、税務戦略の文書化、そしてATOへの情報開示が求められます。この要件は大企業向けのものですが、日本の大手企業がオーストラリアに大規模な事業展開を行う場合には該当する可能性があります。

2025-2026年度予算案でATOへの大型追加予算が計上されたことにより、今後数年間は税務調査の件数と深度が増すことが予想されます。特に、多国籍企業の移転価格、デジタルサービスに関する課税、およびタックスヘイブンを利用したスキームに対する監視が重点分野とされています。日本企業としては、事前にコンプライアンス体制を整備し、取引の実態と税務処理の整合性を確保しておくことが、税務リスクの最小化につながります。

節税・効率化に活用できる制度

フランキング・クレジットを活用した配当戦略

フランキング・クレジット制度は、前述の通りオーストラリアの法人税制度の根幹をなす制度ですが、配当政策の設計において戦略的に活用することも可能です。オーストラリア子会社が十分な法人税を支払っている場合、フランキング・クレジットが蓄積されます。この蓄積されたクレジットを付加した「フランクド配当」を支払うことで、オーストラリア居住株主にとっては実質的な二重課税が排除されます。

日本の親会社にとっては、日豪租税条約に基づく源泉税軽減と、日本側の外国子会社配当益金不算入制度(受取配当の95%を益金不算入とする制度)を組み合わせることで、配当送金に係る全体的な税負担を最小化することが可能です。配当のタイミングや金額の設計にあたっては、オーストラリアのフランキング勘定の残高、日本側の税額控除の限度額、そして為替レートの動向を総合的に勘案することが重要です。

研究開発(R&D)税額控除インセンティブ

オーストラリアのR&D税額控除制度は、世界的にも手厚い水準の研究開発支援策として知られています。この制度は企業の年間売上高に応じて2つのティアに分かれており、それぞれ異なる優遇措置が適用されます。

年間売上高が2,000万AUD未満の企業に対しては、適格R&D支出に対して最大43.5%の還付可能な税額控除が適用されます。これは法人税率25%に18.5ポイントを上乗せした率であり、税額がマイナスの場合でも現金で還付を受けられる点が大きな特徴です。スタートアップ企業や赤字段階のベンチャー企業にとって、研究開発活動を継続するための重要な資金源となります。

年間売上高が2,000万AUD以上の企業に対しては、適格R&D支出に対して最大38.5%の還付不可能な税額控除が適用されます。こちらは現金還付はありませんが、法人税額からの控除として利用でき、使い切れない分は将来年度への繰越しも可能です。日本企業がオーストラリアでR&D活動を行う場合、現地法人を通じてこのインセンティブを活用することで、研究開発コストの実質的な削減が図れます。

中小企業向け特別減税制度

前述のインスタント・アセット・ライトオフに加えて、オーストラリアでは中小企業を支援するための複数の税制優遇措置が用意されています。年間売上高が5,000万AUD未満の企業は、簡易な減価償却プール制度を利用でき、1,000AUD未満の資産を即時償却するとともに、それ以上の資産も加速度的に償却することが可能です。

また、中小企業向けのCGT特例も重要です。事業資産の売却に際して、15年間の免除、50%減額、退職免除、ロールオーバー(課税繰延べ)などの特例が適用される場合があり、事業再編や売却時の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。これらの特例の適用には細かい要件があるため、該当する可能性がある場合は早めに専門家に相談することが推奨されます。

進出形態別の税務戦略

子会社設立と支店開設の税務上の比較

日本企業がオーストラリアに進出する際の主要な選択肢として、現地子会社の設立と支店(Branch)の開設があります。両者は法的にも税務的にも異なる扱いを受けるため、事業の目的や規模に応じた適切な選択が重要です。

子会社は独立した法人格を持つため、親会社の責任範囲がオーストラリアに及びにくいという法的メリットがあります。税務面では、子会社として得た利益はオーストラリアで法人税を支払った後、配当として日本の親会社に送金します。前述の日豪租税条約により、一定の条件を満たせば配当に対する源泉税は0%となるため、二重課税の問題は最小限に抑えられます。

一方、支店は本店(日本の親会社)の一部として扱われるため、オーストラリアでの損失を日本側で即座に控除できるというメリットがあります。事業立ち上げ期に赤字が見込まれる場合には、支店形態の方が税務上有利となるケースがあります。ただし、支店の利益はオーストラリアで課税された後、日本でも合算課税の対象となるため、黒字化後の税務効率は子会社に劣る場合があります。オーストラリアへの輸出・進出を検討する際には、初期投資額、黒字化までの見通し、長期的な事業規模を踏まえて最適な形態を選択すべきです。

税務リスク最小化のための体制整備

オーストラリアでの事業運営において税務リスクを最小化するためには、進出当初から体系的な管理体制を構築することが不可欠です。まず、移転価格税制への対応として、関連会社間取引の契約書を整備し、独立企業間価格の根拠を文書化しておく必要があります。取引開始後に遡って文書を作成するのは困難な場合が多いため、取引設計の段階から税務専門家を関与させることが推奨されます。

次に、PAYG納付の管理やGST申告のスケジュール管理など、日常的な税務コンプライアンスの体制整備も重要です。申告遅延やPAYG過少納付にはペナルティと利息が課されるため、経理担当者の配置や現地会計事務所への委託体制を早期に確立すべきです。さらに、ATOからの通知や照会への対応窓口を明確化しておくことも、税務リスク管理の基本です。

現地専門家との連携体制の構築

オーストラリアの税制は、連邦レベルの法令に加えてATOのルーリング(解釈指針)やプラクティス・ステートメント(実務指針)が膨大に存在し、その解釈や適用は専門的な知識を要します。日本企業がオーストラリアで適切な税務管理を行うためには、現地の公認会計士(CPA Australia、Chartered Accountants Australia and New Zealand所属)や登録税理士(Registered Tax Agent)との連携が事実上不可欠です。

特に、進出初期のABN・TFN取得、GST登録、初年度の法人税申告、そして移転価格文書の作成といった手続きは、現地の実務に精通した専門家のサポートなしには適切に完了することが困難です。費用対効果の観点からも、税務上の過誤やペナルティのリスクを考慮すれば、専門家への投資は十分に回収可能であると考えられます。日本語対応が可能な会計事務所もオーストラリア主要都市に複数存在するため、コミュニケーション面の懸念も軽減されます。

よくある質問(FAQ)

Q1. オーストラリアの法人税率は何%ですか?日本と比べてどちらが高いですか?

オーストラリアの法人税率は、一般法人が30%、中小企業(年商5,000万AUD未満かつ受動的収入80%以下)が25%です。日本の実効税率は約29.7%(東京都の場合)であるため、一般法人の場合はオーストラリアの方がやや高く、中小企業の場合は日本より低くなります。ただし、オーストラリアには地方税(住民税・事業税)に相当する追加課税がないため、税制全体の複雑さという点ではオーストラリアの方がシンプルです。また、フランキング・クレジット制度やR&D税額控除など、実効税率を下げる制度も充実しています。

Q2. オーストラリアで法人を設立する際に必要な税務登録は何ですか?

最低限必要なのはABN(Australian Business Number)とTFN(Tax File Number)の取得です。ABNは事業者識別番号として取引先への請求書発行などに必須であり、TFNは税務申告に使用します。さらに、年間売上高が75,000AUDを超える場合はGST登録が義務となります。従業員を雇用する場合はPAYG源泉徴収への登録も必要です。これらの手続きはオンラインで完了できますが、非居住者が申請する場合は追加の本人確認書類が求められるケースがあるため、現地の税務代理人を通じて手続きを進めることを推奨します。

Q3. 日本とオーストラリアの二重課税はどのように回避できますか?

日豪租税条約(2008年発効)と日本の外国税額控除制度を活用することで、二重課税を大幅に軽減できます。条約により、配当の源泉税率は議決権保有割合に応じて0〜10%に軽減され、ロイヤルティは5%、利子は10%が上限です。特に、親会社が子会社の議決権を80%以上保有し12か月以上保有している場合、配当に対する源泉税は0%となります。日本側では、オーストラリアで支払った法人税を外国税額控除として日本の法人税額から差し引くことが可能です。

Q4. グローバルミニマム課税(第2の柱)はオーストラリア進出にどう影響しますか?

グローバルミニマム課税は、年間連結売上高が7億5,000万ユーロ以上の多国籍企業グループに適用されます。オーストラリアでは2024年1月から所得合算ルール(IIR)と国内ミニマム税(DMT)が、2025年1月から軽課税所得ルール(UTPR)が適用されています。対象企業はGloBE情報申告書などの新しい申告義務を負います。ただし、オーストラリアの法人税率は25〜30%で最低税率15%を大きく上回るため、オーストラリア単体での追加課税リスクは低いといえます。影響が大きいのは、グループ内に低税率国の拠点を持つ場合です。

Q5. オーストラリアのR&D税額控除制度はどのような企業が利用できますか?

オーストラリアで法人登録されている企業であれば、規模を問わずR&D税額控除制度を利用できます。年間売上高が2,000万AUD未満の企業には最大43.5%の還付可能な税額控除が、2,000万AUD以上の企業には最大38.5%の還付不可能な税額控除が適用されます。対象となるR&D活動は、科学的原理に基づく新しい知見の創出やイノベーションを目的としたものが該当し、単なるルーティン作業や市場調査は含まれません。申請にはInnovation and Science Australiaへの事前登録が必要で、会計年度末から10か月以内に登録を完了する必要があります。

まとめ

オーストラリアの法人税制度は、標準30%・中小企業25%という二層構造を基本としつつ、フランキング・クレジット制度やR&D税額控除、インスタント・アセット・ライトオフなど、多彩な優遇制度を備えた体系です。2025-2026年度にはグローバルミニマム課税の本格運用やATOの執行体制強化など、重要な制度変更も進行しています。

日本企業がオーストラリアに進出する際は、日豪租税条約を最大限に活用して二重課税を回避するとともに、移転価格税制やタックス・ガバナンス要件への対応を早期に整備することが求められます。子会社と支店のいずれの形態で進出するかという判断も、税務面からの検討が不可欠です。

オーストラリアの税制は毎年の予算案で改正が行われるため、常に最新情報をフォローし、現地の税務専門家と緊密に連携する体制を構築することが、長期的な事業成功の鍵となります。本記事が、オーストラリア進出を検討する日本企業の皆様にとって、税務戦略の立案に役立つ情報となれば幸いです。

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