この記事のポイント
・オーストラリアで最も一般的な会社形態はPrivate Company(Pty Ltd)で、資本金1豪ドルから設立可能
・ASIC(オーストラリア証券投資委員会)への登録費用は611豪ドル、設立手続き自体は最短30分〜1時間で完了
・取締役には最低1名のオーストラリア居住者が必要で、全取締役にDirector ID(取締役特定番号)の取得が義務化
・会社設立だけでは日本人が就労できないため、就労ビザの取得が別途必要
設立後もASICへの年次報告、会計監査、税務申告など継続的な運営義務がある
オーストラリアはアジア太平洋地域への玄関口として、安定した経済環境と透明性の高い法制度を誇り、世界中の企業にとって魅力的な進出先です。実際に、日本企業によるオーストラリアへの直接投資は年々増加傾向にあり、現地での法人設立を検討する企業も増えています。
しかし、「会社設立の手続きは複雑なのでは?」「費用はどのくらいかかるの?」「どの会社形態を選べばいい?」といった疑問を抱える方も多いのではないでしょうか。本記事では、オーストラリア現地のコンサルタントが、会社設立の手順から費用、必要書類、さらには設立後の運営実務まで、2026年の最新情報をもとに完全解説します。
オーストラリアがビジネス進出先として選ばれる理由
オーストラリアが海外進出先として多くの企業に選ばれている背景には、複数の構造的な優位性があります。まず、地理的にアジア太平洋地域の中心に位置しており、ASEAN諸国やインド、ニュージーランドといった成長市場へのアクセスが容易です。シドニーやメルボルンは国際的なビジネスハブとして機能しており、アジアと欧米をつなぐ拠点としての役割を果たしています。
経済面では、オーストラリアは30年以上にわたりリセッション(景気後退)を経験せずに成長を続けた実績を持ち(2020年のCOVID-19期間を除く)、先進国の中でも屈指の経済安定性を誇ります。法制度においても、コモンロー(英米法)に基づく透明で予測可能なビジネス環境が整備されており、外国企業に対する差別的な規制は極めて少ないのが特徴です。
さらに、オーストラリアは200以上の民族が共存する多文化社会であり、多言語に対応できる人材プールが豊富です。政府も「Austrade(オーストラリア貿易投資促進庁)」を通じて外国企業の進出を積極的に支援しており、各種助成金やR&D税額控除などのインセンティブも充実しています。こうした環境が、日本企業を含むグローバル企業のオーストラリア進出を後押ししているのです。
オーストラリアで選べる会社設立形態
オーストラリアで事業を始める際、最初に決めるべき重要事項が会社形態の選択です。選択した形態によって、法的責任の範囲、税制上の扱い、経営の自由度、設立・運営コストが大きく異なります。以下では、日本企業がオーストラリア進出時に検討する主な4つの会社形態について詳しく解説します。
Private Company(Pty Ltd)― 最も一般的な選択肢
Private Company(非公開有限責任会社)は、社名の末尾に「Pty Ltd」を付す会社形態で、オーストラリアにおいて最も多く選ばれている法人形態です。株主は最大50名までで、株式の公開募集は行えませんが、出資者の責任は出資額に限定されるため(有限責任)、個人資産が事業リスクにさらされることはありません。日本の株式会社(非上場)に最も近いイメージで、中小企業から中堅企業まで幅広く利用されています。設立には最低1名の取締役(うち1名以上がオーストラリア居住者)が必要ですが、会社秘書役(Company Secretary)の選任は任意です。中小企業要件を満たせば法人税率25%の優遇を受けられる点も大きな魅力です。
Public Company ― 大規模な資金調達を目指す場合
Public Company(公開会社)は、株式を一般に公開して資金調達を行える会社形態です。オーストラリア証券取引所(ASX)への上場も可能で、大規模な資金調達を計画している企業に適しています。ただし、取締役は最低3名(うち2名以上がオーストラリア居住者)が必要で、会社秘書役の選任も義務です。年次報告や財務諸表の公開義務、監査要件など、コンプライアンスコストがPrivate Companyと比較して格段に高くなります。日本企業がいきなりPublic Companyとして進出するケースは稀で、多くの場合、まずPty Ltdとして設立した後に規模拡大に応じて移行するパターンが一般的です。
Branch Office(支店)― 親会社の延長として
Branch Office(支店)は、日本の親会社がオーストラリアに支店を開設する形態です。独立した法人格は持たず、あくまで親会社の一部として位置づけられます。法人設立と比較して手続きが簡便で、初期段階の市場調査や小規模な営業活動に適しています。ただし、支店の活動から生じる法的責任や債務は全て親会社が負うことになるため、事業規模が拡大するにつれてリスクが増大する点に注意が必要です。また、ASICへの外国企業登録が必要で、親会社の財務諸表をオーストラリアの規制当局に提出する義務もあります。
Sole Trader(個人事業主)― 最もシンプルな形態
Sole Trader(個人事業主)は、個人がそのまま事業主となる最もシンプルな形態です。設立手続きはABN(オーストラリア事業者番号)を取得するだけで完了し、費用もほとんどかかりません。ただし、事業上のすべての債務に対して個人が無限責任を負うため、事業リスクが直接個人資産に及びます。また、オーストラリアの就労ビザを持つ個人でなければこの形態を選択できないため、日本企業の法人進出にはあまり適していません。フリーランスや小規模な個人ビジネスに向いた形態です。
会社形態の比較表
| 比較項目 | Private Company (Pty Ltd) | Public Company | Branch Office | Sole Trader |
| 法人格 | あり(独立法人) | あり(独立法人) | なし(親会社の一部) | なし(個人) |
| 責任範囲 | 有限責任(出資額まで) | 有限責任(出資額まで) | 無限責任(親会社が負担) | 無限責任(個人) |
| 最低取締役数 | 1名(うち1名は豪州居住者) | 3名(うち2名は豪州居住者) | 不要(現地代理人が必要) | 不要 |
| 株主数の上限 | 最大50名 | 上限なし | 該当なし | 該当なし |
| 株式公開 | 不可 | 可能(ASX上場可) | 該当なし | 該当なし |
| 会社秘書役 | 任意 | 必須 | 不要 | 不要 |
| 設立コスト目安 | 611豪ドル〜 | 611豪ドル〜(+高い運営コスト) | 611豪ドル〜 | ほぼ無料(ABN取得のみ) |
| 法人税率 | 25%(中小企業)/ 30% | 30% | 30%(豪州源泉所得) | 個人所得税率(累進課税) |
| 日本企業への適性 | 最も推奨 | 大規模進出向け | 初期段階・小規模向け | 不向き |
多くの日本企業にとっては、有限責任で経営リスクを限定しつつ中小企業税率の優遇も受けられるPrivate Company(Pty Ltd)が最も適した選択肢です。まずはPty Ltdとして進出し、事業拡大に応じて形態変更を検討するのが一般的なアプローチといえるでしょう。
オーストラリアでの会社設立手順 ― 6つのステップ
オーストラリアでの会社設立は、世界銀行の「ビジネス環境の現状」レポートでも高い評価を受けており、手続き自体は比較的スムーズに進みます。ここでは、Private Company(Pty Ltd)を設立する場合を中心に、具体的な手順を6つのステップに分けて解説します。
ステップ1:ビジネス構想と事業計画の策定
会社設立の最初のステップは、オーストラリアで展開する事業の構想を固めることです。具体的には、提供する商品やサービスの内容、ターゲット市場、競合環境、収益モデルなどを明確にし、事業計画書(Business Plan)としてまとめます。この段階で、どの州(State/Territory)に拠点を置くかも重要な検討事項です。ニューサウスウェールズ州(シドニー)、ビクトリア州(メルボルン)、クイーンズランド州(ブリスベン)は日本企業の進出先として人気がありますが、州ごとに印紙税(Stamp Duty)や給与税(Payroll Tax)の税率が異なるため、税務面も考慮に入れる必要があります。
ステップ2:会社名の選定と予約
次に、オーストラリアで使用する会社名を決定します。会社名は、既にASIC(オーストラリア証券投資委員会)に登録されている名称と同一または酷似するものは使用できません。ASICのウェブサイト上で会社名の空き状況を無料で検索できるため、候補を複数用意した上で事前確認を行いましょう。希望する会社名が使用可能であれば、62豪ドルの手数料を支払って最大2ヶ月間の予約が可能です。なお、会社名を使用せずACN(オーストラリア会社番号)のみで登記することも認められていますが、ビジネス上の信頼性を考慮すると固有の会社名を登録するのが一般的です。
ステップ3:法人設立申請(ASIC登録)
会社名が確定したら、オーストラリア政府の法人登録サービス(Business Registration Service=BRS)を通じてオンラインで法人設立を申請します。申請時に必要な情報には、会社の登録住所(Registered Office Address)、取締役および株主の個人情報、株式の構成(発行株式数・額面等)、会社の内部統治規則(Constitution)の有無などが含まれます。登録申請手数料は611豪ドルで、申請が承認されるとASICからACN(オーストラリア会社番号)、登録証明書、およびオンラインサービス利用のための8桁のCorporate Keyが付与されます。手続きはオンラインで完結し、通常30分〜1時間程度で登録が完了します。
なお、2021年11月以降、全ての会社取締役にはDirector ID(取締役特定番号)の取得が義務化されています。これは15桁の固有番号で、Australian Business Registry Services(ABRS)のウェブサイトからmyGovIDを利用して申請します。取締役就任前または就任後28日以内に取得する必要があるため、設立準備段階で忘れずに手配しましょう。
ステップ4:ABN(オーストラリア事業者番号)の取得
法人登録が完了したら、ABN(Australian Business Number)を取得します。ABNは11桁の固有番号で、オーストラリアで事業を行う全ての法人・個人事業主に付与されるものです。取得手続きはオーストラリア事業者登録(Australian Business Register)のウェブサイトからオンラインで行え、費用は無料です。ABNは、取引先への請求書発行、GST(消費税)の申告、政府機関への各種届出など、あらゆるビジネス活動で必要となります。なお、年間売上高が75,000豪ドル(タクシー・ライドシェア事業者は売上に関係なく)を超える場合は、GST登録も義務となります。GST登録はABN取得と同時に申請可能です。
ステップ5:銀行口座の開設
法人設立とABN取得が完了したら、オーストラリアの銀行で法人口座を開設します。主要な銀行としては、Commonwealth Bank、ANZ、Westpac、National Australia Bank(NAB)の4大銀行が挙げられます。口座開設にはACN・ABNの証明書、取締役全員の身分証明書(パスポート等)、会社の登記情報、オーストラリアの登録住所の証明などが求められます。
ただし、ここで多くの日本企業が直面するのが、銀行口座開設の実務上の難しさです。オーストラリアの銀行はマネーロンダリング防止(AML)およびテロ資金供与防止(CTF)の規制が非常に厳格で、特に非居住者や外国法人に対する審査は慎重に行われます。取締役が全員日本在住の場合、銀行によっては口座開設を断られるケースもあります。対策としては、オーストラリア居住の取締役が銀行窓口で直接手続きを行うこと、現地の会計士や法律事務所を通じて紹介を受けることなどが有効です。口座開設には数週間〜1ヶ月程度を見込んでおくとよいでしょう。
ステップ6:必要なライセンス・許認可の取得
事業内容によっては、州政府や連邦政府からのライセンスや許認可が必要になる場合があります。例えば、食品関連事業であれば食品安全ライセンス、建設業であればビルダーライセンス、金融サービスであればAFSL(Australian Financial Services Licence)が必要です。オーストラリア政府が提供する「Australian Business Licence and Information Service(ABLIS)」を活用すると、自社の事業に必要な許認可を一括で確認できます。ライセンスの種類によっては取得に数ヶ月を要するものもあるため、事業計画の段階から必要な許認可を洗い出しておくことが重要です。
設立手続きのステップ一覧
| ステップ | 内容 | 所要期間の目安 | 費用 |
| 1. 事業計画の策定 | 事業構想、進出州の決定、事業計画書作成 | 1〜3ヶ月 | 自社対応なら無料 |
| 2. 会社名の予約 | ASICで名称検索・予約 | 即日〜数日 | 62豪ドル(予約する場合) |
| 3. 法人設立申請 | BRSからオンライン登録、ACN取得 | 30分〜1時間 | 611豪ドル |
| 4. ABN取得 | Australian Business Registerから申請 | 即日〜数日 | 無料 |
| 5. 銀行口座開設 | 法人口座の開設(4大銀行など) | 1週間〜1ヶ月 | 銀行により異なる |
| 6. ライセンス取得 | 業種に応じた許認可の申請 | 数週間〜数ヶ月 | 業種・ライセンスにより異なる |
会社設立にかかる費用の詳細
オーストラリアでの会社設立費用は、他の先進国と比較してもリーズナブルです。特筆すべきは、オーストラリアでは最低資本金の要件がなく、理論上は1豪ドルの資本金でも会社を設立できるという点です。以下に、設立時にかかる主な費用をまとめます。
| 費用項目 | 金額(豪ドル) | 備考 |
| ASIC会社登録手数料 | 611 | オンライン申請時の法定費用 |
| 会社名予約手数料 | 62 | 最大2ヶ月間の予約(任意) |
| ABN取得 | 無料 | オンラインで即日取得可能 |
| Director ID取得 | 無料 | 全取締役に取得義務あり |
| ビジネスネーム登録(任意) | 39〜(1年間)/ 92〜(3年間) | 会社名と別の商号で事業を行う場合 |
| 登録住所サービス | 年間200〜1,000程度 | 自社オフィスがない場合に利用 |
| 専門家(会計士・弁護士)費用 | 500〜3,000程度 | 設立手続きを代行依頼する場合 |
| ASIC年次報告手数料 | 329(Pty Ltd) | 毎年の法定費用 |
上記のとおり、最低限のASIC登録手数料(611豪ドル)とABN取得(無料)だけであれば、700豪ドル未満で法人設立そのものは完了します。ただし、現実的には現地の会計士や法律事務所に手続きを依頼するケースがほとんどで、その場合は代行費用を含めて1,500〜5,000豪ドル程度が設立時の初期費用の目安です。包括的なパッケージサービス(設立手続き+登録住所+会社秘書役+税務登録など)を利用する場合は5,000〜7,000豪ドル程度になることもあります。
必要書類のリスト
法人設立の申請にあたっては、以下の書類・情報を事前に準備しておく必要があります。まず、取締役および株主全員のパスポートのコピーが必要です。取締役については、オーストラリアの居住住所の証明書類(公共料金の請求書や銀行明細など)も併せて求められます。また、会社の登録住所(Registered Office Address)をオーストラリア国内に確保する必要があり、これはバーチャルオフィスや会計事務所の住所を利用することも可能です。
設立申請書(Form 201)には、希望する会社名、会社の種類(Pty Ltdなど)、登録住所、取締役・株主の氏名・住所・生年月日、発行株式数と各株主の持株数、株式の額面金額、会社秘書役の情報(選任する場合)などを記載します。さらに、取締役全員がDirector IDを取得済みであることも確認されます。外国法人がオーストラリアに子会社を設立する場合は、親会社の登記簿謄本(英訳・公証済み)や定款の提出を求められることもあります。
オーストラリアの税制と規制 ― 知っておくべきポイント
オーストラリアで法人を運営する上で、税制と各種規制の理解は不可欠です。ここでは、日本企業が特に押さえておくべきポイントを解説します。
法人税
オーストラリアの法人税率は、基本税率が30%です。ただし、年間売上高が5,000万豪ドル未満で、受動的所得(Passive Income)の割合が80%以下の「基本税率適用法人(Base Rate Entity)」に該当する場合は、優遇税率の25%が適用されます。多くの日本企業の現地法人はこの要件を満たすため、実質的な法人税率は25%と考えてよいでしょう。また、オーストラリアと日本の間には二重課税防止条約が締結されており、両国での二重課税を回避する仕組みが整っています。オーストラリアの法人税制度について詳しくは、オーストラリアの法人税制度を徹底解説|企業進出時に知っておきたい税務のポイントをご参照ください。
GST(消費税)
オーストラリアのGST(Goods and Services Tax)は税率10%で、ほとんどの商品やサービスに適用されます。年間売上高が75,000豪ドルを超える事業者、またはタクシー・ライドシェア事業者は売上に関係なくGST登録が義務づけられます。GST登録後は、四半期ごと(または月次)にBAS(Business Activity Statement)を提出し、徴収したGSTと支払ったGST(Input Tax Credit)の差額を申告・納付します。
R&D税額控除
オーストラリア政府は、研究開発(R&D)活動を行う企業に対して手厚い税額控除を提供しています。年間売上高2,000万豪ドル未満の企業は、適格なR&D支出に対して43.5%の還付可能な税額控除(Refundable Tax Offset)を受けられます。売上高2,000万豪ドル以上の企業でも、38.5%の非還付型税額控除(Non-refundable Tax Offset)が適用されます。テクノロジー企業やイノベーティブな事業を展開する日本企業にとって、この制度は大きなインセンティブとなるでしょう。
外国投資審査(FIRB)
一定額以上の投資や、農地、メディア、通信、防衛関連など特定セクターへの投資を行う場合は、FIRB(Foreign Investment Review Board)の事前承認が必要です。2024-2025年度の一般的な審査基準額は、日豪EPAの適用を受ける場合、大部分の業種で14.98億豪ドルですが、センシティブセクターでは基準額が引き下げられます。進出計画の初期段階でFIRBの審査要否を確認しておくことが重要です。
労働法規
オーストラリアは労働者保護が手厚い国として知られています。全国雇用基準(National Employment Standards=NES)により、年次有給休暇(年間4週間)、個人休暇・介護者休暇(年間10日間)、最低賃金(2025-2026年度は時給24.95豪ドル)などが法定されています。従業員を雇用する場合は、スーパーアニュエーション(退職年金基金)への拠出義務もあり、現在の拠出率は給与の12%です。人件費の見積もりにはこれらの法定コストを織り込む必要があります。
設立後に必要な運営実務
会社設立は「ゴール」ではなく「スタート」です。設立後には、オーストラリアの法令に基づくさまざまな運営義務を継続的に履行する必要があります。これを怠ると罰金や法人登録の取り消しにつながる可能性があるため、しっかり把握しておきましょう。
まず、ASICへの年次報告(Annual Review)は全ての会社に義務づけられています。設立記念日の2ヶ月前にASICからAnnual Statementが届き、記載内容に変更がなければ年次報告手数料(Pty Ltdの場合329豪ドル)を支払うだけで完了しますが、取締役や登録住所の変更があれば28日以内にASICへ届出が必要です。
税務面では、法人税の確定申告を毎年度(通常7月〜翌6月の会計年度)行う必要があります。GST登録事業者はBASの定期提出も必須です。また、従業員を雇用している場合はPAYG(源泉徴収)の申告・納付、スーパーアニュエーションの拠出、労災保険(Workers’ Compensation Insurance)への加入なども求められます。
会計記録については、Corporations Act 2001に基づき、全ての取引記録を少なくとも7年間保管する義務があります。中小企業であっても適切な会計ソフト(Xero、MYOB、QuickBooksなど)を導入し、日常的な記帳を怠らないことが重要です。現地の会計士と顧問契約を結び、月次または四半期ごとにレビューを受ける体制を整えておくことを強くお勧めします。
就労ビザとの関係 ― 会社設立だけでは働けない
見落とされがちですが、オーストラリアで会社を設立しても、それだけでは日本人が現地で就労する権利は得られません。オーストラリアで就労するためには、別途適切な就労ビザを取得する必要があります。
日本企業のオーストラリア進出で最もよく利用されるビザは、Skills in Demand(SID)ビザ(サブクラス482)です。これは雇用主(=設立した現地法人)がスポンサーとなり、特定のスキルを持つ労働者を海外から招聘するためのビザで、Core Skills Streamの場合は最低年俸76,515豪ドル以上が条件となります。Specialist Skills Streamであれば最低年俸141,210豪ドル以上が求められますが、職業リストの制限が緩和されるメリットがあります。
また、駐在員の派遣であれば、企業内転勤ビザなどの選択肢もあります。ビザの種類や取得要件は頻繁に変更されるため、最新情報の確認が欠かせません。就労ビザの詳細については、【完全版】オーストラリアでの雇用のための就労ビザ申請(種類、取得方法、必要書類・費用、期間など)をあわせてご確認ください。
会社設立とビザ取得は並行して準備を進めることが可能ですが、ビザの審査には数ヶ月を要する場合があるため、事業開始のタイムラインにはビザ取得期間を織り込んでおくことが大切です。
まとめ ― オーストラリア法人設立を成功させるために
オーストラリアでの会社設立は、他の先進国と比較して手続きが明快でスピーディーです。ASIC登録費用611豪ドルと無料のABN取得で法人は設立でき、最短で即日〜数日での登録完了も可能です。しかし、形態選びの判断、銀行口座開設の実務、就労ビザの取得、設立後の継続的なコンプライアンス対応など、実務面では現地の事情に精通した専門家のサポートが大きな助けとなります。
特に日本企業にとっては、オーストラリア居住取締役の確保、Director IDの取得、銀行口座開設時のAML/CTF審査への対応など、日本国内からでは対処しにくい実務上のハードルが存在します。こうした課題を乗り越え、スムーズに事業を開始するためには、設立手続きだけでなく、税務・ビザ・労務といった周辺領域も含めたトータルサポートを受けることが成功の鍵です。
よくある質問(FAQ)
Q1. オーストラリアで会社を設立するのにどのくらいの期間がかかりますか?
法人登録手続き自体は、オンラインで申請すれば最短30分〜1時間程度で完了し、ACN(会社番号)が即日発行されます。ただし、事業計画の策定、会社名の決定、Director IDの取得、銀行口座の開設、必要なライセンスの申請などを含めた全体のプロセスでは、通常2〜3ヶ月程度を見込んでおくのが現実的です。特に銀行口座開設は審査に時間がかかることがあるため、余裕を持ったスケジューリングをお勧めします。
Q2. 日本に居ながらオーストラリアで会社を設立することは可能ですか?
はい、可能です。ASICへの法人登録はオンラインで完結するため、日本にいながら申請手続きを行えます。ただし、Private Company(Pty Ltd)の場合、最低1名のオーストラリア居住取締役が必要です。自社でオーストラリア在住者を確保できない場合は、現地の法律事務所や会計事務所が提供するノミニー取締役(Nominee Director)サービスを利用する方法もあります。また、銀行口座の開設は原則として取締役がオーストラリアの銀行窓口に出向く必要がある場合が多いため、この点は事前に確認が必要です。
Q3. 最低資本金はいくら必要ですか?
オーストラリアには法定の最低資本金要件がなく、理論上は1豪ドルの資本金でも会社を設立できます。ただし、実際にビジネスを運営するための運転資金や、銀行口座開設時に一定の資金が口座にあることが望ましいこと、取引先からの信用などを考慮すると、事業規模に見合った資本金を設定することが推奨されます。なお、会社設立後に増資を行うことも柔軟に可能です。
Q4. Private CompanyとBranch Office、どちらを選ぶべきですか?
一般的に、オーストラリアでの事業を本格的に展開する場合はPrivate Company(Pty Ltd)が推奨されます。独立した法人格を持つため親会社へのリスク遮断効果があり、中小企業税率(25%)の適用も受けやすいためです。一方、Branch Officeは初期の市場調査やテストマーケティングなど、小規模かつ一時的な活動に適しています。ただし、Branch Officeの場合は親会社の財務情報をASICに提出する義務があり、事業規模が拡大すると親会社への無限責任が負担になるため、長期的にはPty Ltdへの移行を検討するケースが多いです。
Q5. 会社設立後、毎年かかる維持費用はどのくらいですか?
法定費用としては、ASICへの年次報告手数料(Pty Ltdの場合329豪ドル)が毎年発生します。それに加えて、法人税の確定申告やBAS提出のための会計士費用(年間2,000〜8,000豪ドル程度、事業規模による)、登録住所の維持費(バーチャルオフィス利用の場合、年間200〜1,000豪ドル程度)、労災保険料(従業員を雇用する場合)などが主な経常費用です。事業規模や業種によって大きく異なりますが、小規模な法人であれば年間5,000〜15,000豪ドル程度の管理維持コストを見込んでおくとよいでしょう。